映画のプロ10人が最速レビュー!

構成・文/サンクレイオ翼
最速レビューをネタバレなしでお届け!映画のプロ10人は『レジェンド&バタフライ』はこう観た!

映画『レジェンド&バタフライ』をより深く楽しむためのWEBマガジン「レジェバタ公記」。これまで、企画の成り立ちや作り手の想い、制作現場レポートなどご紹介してまいりましたが、実際に完成した本作をいち早く観た映画ライターの人たちはどう受け取っているのか?
第4回では、いち早く鑑賞した10名の映画ライターのレビューをどこよりも早く一挙にご紹介。「これは事件!」「大友監督、やりやがったな!」と、おおいに本作の熱量にあてられた様子。映画を語る“プロ”たちは、『レジェバタ』をどう評したのか? ネタバレなしでお届けするので、ご安心を。

■濃姫と信長の想いがせつなくも愛おしいなんて。これは事件!

時間を忘れるほど大胆で挑発的な画の連打。ドラマティックな史実をいまの時代らしいエンタテインメントとして衣替えさせた豪快さ。大友啓史監督と古沢良太、スタッフが考えついた綾瀬はるか扮する濃姫を圧倒的に強い女性として描くこと。それは同性から見ても気持ち良く、木村拓哉演じるヤンチャな信長が、天下人になる刺激を与える唯一無二のパートナーだったことを表現。時代劇による殺陣がまばたきを忘れるほど華麗で、ダイナミックな見せ場として色鮮やかに描かれる、しかも2人の想いがせつなくも愛おしいなんて。これは事件!これぞ職人技!
(映画パーソナリティ・伊藤さとり)

■どこをとっても新しい、信長映画のイメージを超えた一大エンタテインメント大作

夫婦愛から見た、人間、織田信長。しかも女性上位の夫婦像が信長に、いままでにない弱さとかわいらしさを、加えていて斬新。カッコつけの青年から、自分を見失ってダークサイドへ落ちていく木村拓哉の信長。その彼を圧倒的な意志の強さで支える、自由を求める野生児の濃姫、綾瀬はるか。何度も衝突しながら、真実の愛で結ばれる夫婦を、二大スターが見事に演じている。愛する者の元へ生還するため、信長が大奮闘する「本能寺の変」をはじめ、どこをとっても新しい、信長映画のイメージを超えた、一大エンタテインメント大作だ。
(映画ライター・金澤誠)

■「大友監督、やりやがったな!」と心の中で叫んでしまった

かつては杉良太郎、高橋秀樹、役所広司らが演じた豪快で短気な正統派の織田信長役が、その後次世代の俳優たちを経由して、形を変え、ついに木村拓哉の手に。彼が演じる終始やさぐれた信長像に準じて、強く、潔い濃姫を口跡のいい台詞回しで演じる綾瀬はるか、美しく儚げな宮沢氷魚の明智光秀、そして、市川染五郎による怪しい視線を発散しまくる信長の小姓、森蘭丸らが、新しい英雄像に新鮮な華を添えていく。特に、本能寺の変で信長を守ろうと戦う蘭丸の姿に、「大友監督、やりやがったな!」と心の中で叫んでしまった。そんなふうに配役のアンサンブルが楽しい最新戦国時代劇。これが時代劇のパイオニアである東映から創立70周年記念作品として放たれたことに、東映と、時代劇と、映画の変容を感じずにはいられない。
(映画ライター・清藤秀人)

■信長と濃姫の物語にこんな切り口があったか!うれしい驚きに心掴まれる

昔から散々描かれてきた信長と濃姫の物語にこんな切り口があったかと、冒頭からうれしい驚きに心掴まれる。有名な「敦盛」や信長の愛用した三脚蛙の香炉などのアイテム処理の仕方にいちいちくすぐられ、信長の歴代4つの城も一つ一つ再現して城・双六も楽しめる趣向。木村拓哉と綾瀬はるかによる信長と濃姫の激しく濃密な関わりはドラマティック。とはいえ2時間48分は長すぎやしないかと途中怖気づいたのも本音だが、クライマックスのそう来るかという展開は長く観てきた時間が報われるものだった。あらゆる先入観を華麗にひっくり返す達人・古沢良太の脚本とダイナミズムと緻密な知性を兼ね備えた大友啓史監督の組み合わせの妙味と勝利。
(映画ライター・木俣冬)

■大友啓史監督の作品には、命がある。

決め打ちとアドリブ性の融合…。妥協を許さぬ作り込みを土台にして、瞬間の熱情を大胆に採り入れる豪気。肉体の躍動、魂の咆哮/彷徨に説得力が伴うのは、それが故であろう。本作は生粋のエンタメだ。だが、描かれるのは綺麗事ではない。天下獲りの夢物語を語らう若き夫婦が、悲願のためには他者の命をどこまでも犠牲にせねばならないと知った時―その血まみれの愛に、震わされている自分がいた。好意と狂気が絡み合う“情念”は「龍馬伝」「るろうに剣心」そして『影裏』に至るまで、大友監督の真骨頂でもある。どうしたって死と殺を美化してしまう創作の世界で、現実を手繰り寄せる手腕。見事でした。
(物書き・SYO)

■水と油のようでいて、夫婦漫才のようにテンポよく、相性抜群!

公開前から話題騒然の『レジェンド&バタフライ』。同じ役を過去にも演じたことのある木村拓哉と綾瀬はるかの二人が戦国武将、織田信長と謎めいた彼の正室、濃姫の30年にわたる夫婦の絆を体現。敵同士として出会った二人が一緒の夢を追いかけるうち、次第に背負うものが大きくなり、互いを思いながら、素直になれずにすれ違っていく様がせつなく愛おしい。信長を一人の男として捉えて、その人生を生き抜いた木村と抜群の身体能力を活かして、姫で刺客の濃姫に扮した綾瀬は水と油のようでいて、初夜のシーンから夫婦漫才のようにテンポよく、相性抜群。それぞれの魅力がぶつかり合い、より一層、輝きを増す。
(映画ライター・高山亜紀)

■信長と濃姫の悲しい純愛ラブストーリーである

数いる戦国武将のなかでひときわ高い人気を誇るのが織田信長で、これまでに20作を超える映画やドラマとなっている。だが本作の信長とその正室(妻)である濃姫とはこれまでと違う、新たな姿を魅せてくれる。信長が濃姫を正室として迎え入れる冒頭から違う。この2人の結婚は戦国時代にありがちな政略結婚であったが、お互いに惹かれているのに反発する。ツンデレである。前半はほぼ時代劇ラブコメ。演じるのが木村拓哉と綾瀬はるかで、これは新しい。やがて2人は互いが必要な存在となっていくが、最後は本能寺という悲劇へ向かっていく。ここでも本作はこれまでと違う2人を見せてくれる。本作は信長と濃姫の悲しい純愛ラブストーリーである。
(映画ライター・竹之内円)

■信長&濃姫に関わった人物についても、もっと知りたくなる

信長&濃姫の最悪の出会いから共に同じ夢を見るまでの30年の心の動きをじっくり丁寧に描く。有名すぎる信長にはまだまだ知られていない一面があると知り、ますます惹かれてしまう。信長と濃姫が、歴史とは違う道を歩んでいたら?別の物語も見てみたいとワクワクさせられる、あまりにも魅力的な二人。そんな二人を取り巻く人々も超豪華。濃姫に付き従う福富平太郎貞家の献身、指の先まで美しい森蘭丸の所作、パッと見誰が演じているのか分からない徳川家康、さすがの存在感の斎藤道三、ミステリアスな明智光秀。信長&濃姫に関わった人物についても、もっと知りたくなる。
(映画ライター・タナカシノブ)

■切り札がそろい、極上の映画体験を味わわせてくれる

やんちゃな10代、天下布武を掲げ魔王と化していく迫力、裏に秘めていた濃姫への深い愛情。数々の青春ドラマやラブストーリーで日本中を熱狂させ、冷徹なオーラを放つ教官に扮したドラマ「教場」で新境地を開くなど、ひたむきにスター街道を歩んできた いまの木村拓哉だからこそ演じられた信長の登場に心が震えた。綾瀬はるかはおっとりとした素顔も人気だが、常にストイックな俳優魂を心に刻んでいる点が大きな魅力。凛々しく気高い濃姫は、こういう綾瀬はるかが見たい!という願望が最大級の形で叶ったよう。大友啓史が生みだすリアリズム、古沢良太が仕掛けた見たことのない本能寺。切り札がそろい、極上の映画体験を味わわせてくれる。
(映画ライター・成田おり枝)

■人斬り抜刀斎こと緋村剣心と雪代巴の姿が、信長と濃姫に美しく重なる

大友啓史監督は常に「いま」に向けて作品を放つ。日本を代表するトップスター、木村拓哉と綾瀬はるかと組んで信長と濃姫を描くこの歴史劇にも、大胆な解釈で最新の時代精神が吹き込まれる。男性優位の慣習を問い直す批評的な眼差し。本作が創出する信長と濃姫のパートナーシップは「ふたりでひとり」という運命的な絆だ。やがて信長は人から鬼になる。シェイクスピアの「マクベス」や「リア王」に近い世界。「負の連鎖」の巨大な歯車。おそらくロシアのウクライナ侵攻も大友の念頭にあったのでは。同時に「るろうに剣心」シリーズ―特に『~ 最終章 The Beginning』で鮮烈に描かれた、人斬り抜刀斎こと緋村剣心と雪代巴の姿が、信長と濃姫に美しく重なる。
(映画ライター・森直人)

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構成・文/サンクレイオ翼