面白さ爆裂!戦国オールスター列伝

文/水野 裕基(MOVIE WALKER PRESS編集部)
主役級の戦国オールスターがズラリ!信長&濃姫を取り巻く人物たちの史実エピソードがスゴイ

映画『レジェンド&バタフライ』で描かれるのは、織田信長とその妻・濃姫の“最低最悪の出会い”、そして彼らが駆け抜けた “激動の30年の軌跡”である。時代を変えることになる2人の運命的な出会いから、波乱に満ちたその後が濃密に映し出され、そこには何者も入り込む隙はない。しかし舞台は激動の戦国時代。信長と濃姫の周囲にいる人物は皆、誰もが物語の主人公になり得るほどの濃いドラマを持った“レジェンド”ばかりなのだ。そこで今回の「レジェバタ公記」第3回では、信長&濃姫を取り巻く登場人物たちの史実上の姿をご紹介。彼らの人物背景を知れば、より深く映画を味わえるはず!

■本当にマムシ?国を盗んだ非道な濃姫の父:斎藤道三

まず取り上げるのは、濃姫の父親にして美濃(現在の岐阜県南部)の武将である斎藤道三。出自についてははっきりとわかっていないが、僧侶から油商人になり、そして武士になったという経歴の持ち主だ。司馬遼太郎の小説「国盗り物語」で信長と並んで主人公として描かれたことなどにより、主君を討ち、追い出して“国盗り”を実現させ成り上がった「下剋上」の代表的人物として知られるようになる。

道三といえば、“美濃のマムシ”の異名で有名。なぜかというと、猛毒を持つマムシのように危険で恐るべき存在であったこと、仕えていた主君を破るさまが「マムシの子は親の腹を食い破って生まれる」という迷信と合致したこと、マムシが巨大な獲物を丸呑みするように美濃国を手中に収めようとしていたことなどが挙げられる。が、この異名は後世になって小説でつけられたものらしい。

道三の娘、濃姫にまつわる記録は非常に少ないが、信長に嫁いだのが15歳の頃で、彼女にとって三度目の結婚だった。ここで気になるのは過去の二度の結婚のこと。実はどちらの結婚も夫との死別だったそうで、目的のためなら手段を選ばない道三が絡んでいた可能性も十分にある。また、濃姫以外の道三の娘たちも次々と政略結婚させられていたという。同盟や和睦の証として人質のように娘を輿入れさせることも日常茶飯事だった戦国時代ではあるが、“国を盗む”ほどの大事を成すにはそのくらいの気概と冷徹さが必要だったのかも…?

本作『レジェンド&バタフライ』での濃姫も、あわよくば信長を暗殺しようとする危険な面を見せる。そしてその背後に控えるのは、大御所・北大路欣也が貫禄たっぷりに演じる斎藤道三だ。この親にしてこの子あり…ではないが、したたかに戦国の世を生き抜いたマムシの娘の姿に説得力を与える存在感は必見だ。

■上司に恵まれ大出世!?天下人となった男:明智光秀

2020~21年にかけて放送されたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公だったのも記憶に新しい明智光秀。誰もが知る歴史的大事件、本能寺の変で謀反を起こし、信長を自害に追い込んだ裏切り者…という印象が強いものの、名もなき身分から戦乱の世を切り抜け、主君に忠誠を誓い、数日ながら天下をとるほどの大出世を成し遂げたということを考えると、非常に優秀な人物であることがわかる。

生年をはじめ、光秀については諸説あり現在も明確ではないが、通説によると父は美濃の斎藤道三に仕えていたとされる。道三と彼の長男の争いに巻き込まれ、放浪の身に。越前(現在の福井県)で朝倉義景に仕えると、後の第15代室町幕府将軍となる足利義昭とも接点を得る。上洛し将軍になりたい義昭を信長と繋ぎ、信長に重用されるようになっていく。

妻の髪を売るほど困窮していたという放浪後は、上司に恵まれトントン拍子に出世していくように見えるが、すべてのもとになっているのは光秀のハイスペックぶりだ。どの陣営につくかを見極める眼力はもちろん、豊富な医学知識を持ち、優れた建築技術で城をみずから設計、格式高い連歌会にも参加するほどの素養も持っていた。もちろんこれらは一朝一夕で身につくものではないので、すべて彼の努力のたまものといえるだろう。

前述のように生年は諸説あるものの、定説では光秀は信長よりも年上だったとされているが、『レジェンド&バタフライ』では信長よりも若かったという大胆な解釈でストーリーを構築、若き宮沢氷魚が光秀をミステリアスに好演。何を考えているのか誰もわからない不穏な空気を放っている。

ちなみに、光秀は道三の甥で濃姫とは“いとこ同士”だったという説も。2006年のNHK大河ドラマ「功名が辻」では、信長、光秀、濃姫の三角関係が描かれた。また、光秀は本能寺の変以降、山崎の合戦の後に討たれたとされているが、高名な僧・南光坊天海として生き延びて徳川家康に仕えていた…という生存説も語り継がれている。

■めちゃくちゃ気が利く信長の有能秘書!:森蘭丸

信長の“寵愛”を受けた存在としてあまりにも有名な森蘭丸。蘭丸は俗称で、森長定、森成利などの名前で呼ばれる。父が織田家の家臣・森可成だったこともあり、13歳の頃より武将の身の回りの雑用を務める“小姓”という役職として織田信長に仕えるようになった人物だ。とにかく美少年であること、そして本能寺の変で10代にして命を落とした悲劇性などから、“映える”存在として数々の創作物で好まれて描かれてきたが、彼がほかの部下と比べて特に有名になったのは「とにかく秘書として有能だったから」という可能性もある。ここでは有名なエピソードをいくつかご紹介しよう。

ある日、信長に障子が開いているから閉めてこいと言われた蘭丸。行ってみると障子は閉まっていたが、彼は一度障子を開けてからピシャリと音がするように閉めて戻ってくる。そして信長に対し「障子は閉まっていた」と報告した。「なぜ音がしたのか?」と信長に聞かれた蘭丸、「主君である信長が皆の前で『開いているから閉めてこい』と言ったので、ただ『閉まっていた」だけでは間違いになってしまう。それで皆に聞こえるようにわざと開け、音を立てて閉めたのだ」と答えたという。

ある時は、信長に献上された大量のミカンを蘭丸が台に載せて運んでいた。それを見た信長が「お前の力では危ない、転んでしまうぞ」と注意をすると、蘭丸はそのとおりに転び、ミカンを散らばらせてしまった。これは“わざと”やったことだという。主君の信長が「危ない」と忠告したため、転ばずに運んでしまっては信長の判断が間違えていたことになってしまうからだ。

どのエピソードも現代の価値観から考えると、主君である信長への“忖度”がだいぶ過ぎるようにも思われるが、主君に忠実であることが美徳とされた戦国時代のこと。機転が利く蘭丸の忠臣ぶりは当時、秘書官としてかなり有能だったといえる。それだけでなく、蘭丸がいち早く明智光秀の反逆心に気付き、信長に警告していたのではないかという説もある。

そんな蘭丸を『レジェンド&バタフライ』で演じたのは、本作で時代劇映画初出演を果たした市川染五郎。落ち着いた物腰で、次第に“魔王”へと変わっていく信長をひたすら静かに見守る。もちろん上品な振る舞いと容姿端麗ぶりは、蘭丸そのもの!

■鬼と呼ばれた男、純愛道を貫く!?:柴田勝家

柴田勝家は木下藤吉郎(羽柴秀吉)、明智光秀らと並び「織田五大将」と呼ばれる重臣の一人。もともとは信長の父・織田信秀の代から織田家に仕え、信秀の死後は信長ではなく弟・信行の家臣となった。信長と対立し挙兵するものの敗北。彼の実力を認め臣下となり、以後、なくてはならない存在になる。三谷幸喜監督による2013年の映画『清須会議』で主人公として描かれたのを記憶している人も多いのでは?

勝家はその猛将ぶりから“鬼”と呼ばれ、戦では先陣を切って幾多の武功を打ち立て、信長を支えたことで有名だ。信長と会見したこともあるイエズス会の宣教師ルイス・フロイスからは「もっとも勇猛な武将であり果敢な人物」と評されている。数々のエピソードからは無骨で、荒々しく、近寄りがたい姿を想像してしまうが、彼の“結婚”にまつわる話からは、意外な横顔が見えてくる。

本能寺の変を受けて信長の後継者を決めるため「清須会議」が開かれ、その後、勝家は信長の妹で“戦国一の美女”といわれたお市の方と結婚することに。当時勝家は60歳で、お市の方との年の差は25歳。初婚の勝家に対しお市は3人の連れ子を持つ再婚だった。実は勝家、織田家に仕え始めた頃にお市を見かけ、一目惚れしていたといわれており、いわゆる一種の政略結婚とはいえ、60歳にして長年の恋を実らせたことになる。後に秀吉と対立した勝家はお市と共に自害させられてしまうことになるが、茶々、初、江というお市の3人の子を逃がすことに成功。結果的に愛する人の子を守るという究極の“純愛”を貫いたといえるだろう。

『レジェンド&バタフライ』では池内万作が勝家に扮し、戦を重ねるうちに狂気に満ちた“魔王”と化していく主君・信長に戸惑う織田家の武将として登場。複雑な想いを抱え、時に濃姫に助けを求めながら、信長の行く末を見守る。

■百万石の立役者は、長身イケメンのド派手な傾奇者:前田犬千代

「犬千代」と聞いてピンとこない人もいるかもしれないが、「前田利家」と呼べばおわかりいただけるのではないだろうか。ズバリ、2002年のNHK大河ドラマ「利家とまつ〜加賀百万石物語〜」などでも描かれた、“加賀百万石”を築いた実力派としてよく知られる武将だ。犬千代は利家の幼名である。

当時としては非常に珍しい6尺(約182cm)の長身で細身のイケメン、そして“槍の又左”と呼ばれるほどの槍の名手と、キャラが立ちまくっていた犬千代。彼は血気盛んで気性も荒く、女物の着物を着るなどド派手な格好を好む“傾奇者(かぶきもの)”でもあった。若くして信長に小姓として仕えるが、「うつけ」と呼ばれた傾奇者の信長とはだいぶウマが合ったようだ。『レジェンド&バタフライ』でも冒頭、和田正人が演じた前田犬千代は、悪ガキ時代の信長とはしゃぎ回る“悪友”ぶりを発揮。濃姫の輿入れシーンでのコミカルなドタバタ劇を盛り上げている。

ちなみに史実に残るエピソードとしては、信長のお気に入りだった茶坊主と喧嘩をし、殺してしまったことから信長の逆鱗に触れ、命を奪われる処罰は免れたものの“出仕停止”として追放される目に遭っている。

出仕停止とはいわゆる解雇に近いのだが、なんとか信長に許してもらいたい犬千代は大胆なことをしでかす。なんと桶狭間の戦い、森部の戦いに“無断で”参戦。敵将を倒す功績を上げて信長に許しを乞うのだ。2年かけて許されようやくカムバック。その後重用され、加賀百万石を築くことになる。後に「戦場にまで算盤(そろばん)を持ち込んだやりくり上手の倹約家」として語り継がれたのは追放されていた2年間の苦労があったから、との説も。そして、犬千代に追放されてでもついていきたいと思わせた信長のカリスマ性も伺える。

■ほかにも戦国時代のレジェンドが大挙登場!あなたはどこまで知ってる?

映画『レジェンド&バタフライ』ではここに挙げた以外にも、信長と共に「戦国三英傑」と称される羽柴秀吉こと木下藤吉郎(音尾琢真)、徳川家康(斎藤工)らを始め、戦国時代のレジェンドたちが大集結。信長と濃姫が織りなすドラマを盛り上げている。その姿はぜひ映画本編で確かめてみてほしい!

文/水野 裕基(MOVIE WALKER PRESS編集部)